2010年6月20日(日) 20:35~ チネ2
料金:1200円(レイトショー料金) パンフレット:700円(買っていない)

『孤高のメス』公式サイト

冴えないタイトルの医療小説が原作。タイトルは、アレだし、現役の医者の文章なので、何とも堅苦しいのだが、話はとても面白い。ディテールがしっかりしているので非常に興味深く、手術シーンも専門用語はあるが、イメージ可能で読みやすい。全6巻の長編だが、一気に読める。まあ、1巻は200ページくらいで、「幻魔大戦」くらいの厚さなんだが。

小説の感想の記事

小説の主役の当麻鉄彦の推定年齢が35歳くらいなので、堤真一が演じると聞いたときは、違和感を覚えた。寧ろ不安感しかなかった。
で、まあ、ある程度覚悟して観にいったのだが・・・

日本初の脳死肝移植に挑む完全無欠の人格者である医者の話。(原作)

当麻が、都はるみのファンで、オペ中に歌を流すという謎の設定は兎も角、脚色およびそれに伴うキャラクター設定の変更を巧く行っている。無理に原作に拘らず、要領よく端折り、大胆に変更を加えて、2時間程によく纏めた面白い話になっていた。
原作が好きな作品では、120%不満だらけ(※)だったのだが、今回は異例の高評価だ。※過去で一番許せんのは、「マイ・ボディーガード」とかいう「燃える男」の映画。

「ミッドナイト・イーグル」の監督にしては上出来じゃん。いや、巷で思い切り評判の悪い「ミッドナイト・イーグル」、俺はそれ程嫌いでないんだけどね。そもそも、この監督の直近作「ラブ・ファイト」は好きだし。
あ、でも両作品で共通の主役大沢たかおが、当麻鉄彦を演じていたら、本作の評価はどうなったかわからないけど・・・。

原作と登場人物の違い(読み返した訳で無く記憶だけに頼っているので、微妙に間違っているかも)

堤真一(当麻鉄彦)
主人公。年齢が原作より10歳ほど上。尋常でなく生真面目で馬鹿丁寧な部分が削がれた。原作の当麻は、あまりに人間離れしているもんな。しかし、何故都はるみなんだ。1990年頃40~45くらいの男の聴く音楽か・・・

夏川結衣(中村浪子)
看護士。脳死状態の少年を紹介する役割だった(はずだ)が、本作では重要な役割を与えられている。彼女のナレーションで話が進む。影の主役。当麻への純愛。別れのシーンで「好きになった人」が流れたらどうしようと少しびびって観ていた。

吉沢悠(青木隆三)
若い医師。後述の駄目医野本の部下。映画では野本に嫌気がさして病院を辞める。原作では野本が速攻で追い出されるので、青木は念願の当麻の元で働ける。しかし、病院の事務員に惚れてしまい、その事務員は当麻を好き。そこで、いたたまれなくなって病院を辞める情け無い男。当麻は、かつて在籍した関東の研究施設(?)を紹介するが、映画ではピッツバーグの肝移植の研究所(?)を紹介している。

中越典子(大川翔子)
病院に力を入れていた市長の娘。原作では、当麻とかなりいい仲になるが、映画では見合いをするだけで、何ら進展が無い。これは無関係にして大成功だ。

矢島健一(村上三郎)
病院の事務長。原作では院長の弟、映画では雇われている人物で、しかも悪役にポジション変更。本来の島田三郎さんが可哀想な扱い。

成宮寛貴(中村弘平)
原作には出て来ない(はず)。当麻の話が1990年頃の話なのだが、当時当麻と組んでいた看護士中村浪子の子供。母親が亡くなり荷物を整理している時に、当時の日記を発見。当麻のことを知る。狂言回し。しかし、映画の中では無駄な存在ではない。

平田満(島田光治)
市民病院の院長だが、原作では個人経営の病院の院長。キャラクター設定は、唯一原作通りか。

松重豊(実川剛)
当麻の理解者。大学病院の教授。原作では、野望に燃える助教授で癖のある興味深い人物だったが、松重豊なのでか単なるいい人に成り下がった。日本沈没の豊川悦司がイメージだったのだが。あそこまで尊大でないけど。
原作でも当麻には一目置いていて、ある意味尊敬も嫉妬もしている。

余貴美子(武井静)
脳死の息子の肝臓を提供する母親。行動原理は原作と同一。原作より出番が多い。感動シーンは彼女の担当になっている。どこでも余貴美子は、流石に凄い役者だ。

野本六郎(生瀬勝久)
原作より役柄が一番出世した奴。当麻の赴任先の古株の外科医。当麻が赴任しても病院を追い出せないので、野本の第一外科、当麻の第二外科と二つに分かれた。手抜き、サボり、嘘つきの駄目医者。当然、当麻が担当医の日の評判がいいので、頭に来ている。原作では、1巻で不倫絡みで自ら消えていく不戦敗な奴だが、映画ではより図々しくなって最後まで奮闘する。

柄本明(大川松男)
肝硬変で倒れる市長。設定に大きな変更は無い。

サイトで紹介されていない奴。
役者不明(矢野)
当麻の弟子。原作では、併設されたホスピスの看護士に惚れるエピソードがあった。たいした話じゃなかったのだが無理やり入れられた感。目立たないので作者の同情を買ったのか。
原作でも印象が薄いように、映画ではより一層目立たない。

原作で活躍していたのだが、映画では登場なしの人々。
実川のボス(中央進出を狙う野望の塊の大学病院の教授。財前みたいな奴?)
保険の利かない痔専門病院の院長
スクープを狙う医療新聞記者
野本の子飼いの使えない医者
台湾の名医
当麻に惚れる事務員
無理に出さないのは映画としては正しい選択。しかし、小説では面白いキャラなんで外しがたいものもある。

舞台は琵琶湖周辺だったのが千葉になっているようだ。意図は不明。ロケ地の問題か?

ちなみに当麻は腕がいいのでメスを振るっても血もあまり出ず、何と手術シーンの内臓も気色悪く感じ無い。

お勧め度:☆☆☆★ 脚色度:☆☆☆☆ 俺度:☆☆☆★